のび太は撃てない

1. ドラえもん のび太の鉄人兵団

『ドラえもん のび太の鉄人兵団』は、
地球を侵略しようとするロボット軍団・鉄人兵団と、
ドラえもん・のび太たちが戦う地球防衛の物語だ。

鉄人兵団は、感情や悪意で動いている存在ではない。
「地球を支配する」という目的を、
プログラムとして忠実に実行しているに過ぎない。

その一員である美少女ロボット・リルルもまた、
人間を奴隷にする事を悪だと思っていない。
それは祖国メカトピアにとって、普遍的な常識だったから。

一方、しずかちゃんは、
リルルを敵としてではなく、一人の人格として扱う。
傷を手当てし、言葉を交わし、対話を重ねる。

その関わりの中でリルルは、
自分の常識が人間と大きく異なることを、少しずつ知っていく。

やがてリルルは、祖国を裏切り、
地球を守るために鉄人兵団の侵略プログラムを消去する。
それは同時に、彼女自身の消滅を意味していた。

地球侵略は失敗に終わり、世界は平和を取り戻す。


2. リルル・しずか・のび太

この物語では、三人がそれぞれ異なる立場から
「正しさ」と向き合っている。

リルルの立場

  • 人間を奴隷にすることは、感情的には好ましくない
  • しかし、それは祖国メカトピアの秩序であり使命でもある
  • 自分が裏切れば、世界の構造そのものが崩れる
  • 正しいと思えなくなっても、簡単には離れられない

しずかの立場

  • 敵であっても、壊れている存在を見捨てられない
  • リルルの考えが間違っていることは、はっきり分かっている
  • それでも否定や攻撃ではなく、ケアと対話を選ぶ
  • 正しさを押し付けることは、解決にならないと知っている

のび太の立場

  • 地球を守りたい
  • リルルも守りたい
  • 世界の構造も、戦争の論理も理解できない
  • ただ、目の前の正義を貫くことで精一杯

三人とも、正しいことを考えている。
だが、その正しさは噛み合わない。


3. 地下鉄の出口

リルルを鉄人兵団に合流させるわけにはいかなかった。
ドラえもん、のび太、ジャイアン、スネオは町を捜索する。

リルルを地下鉄の出口で見つけたのは、のび太だった。

リルルは、自分自身に追い詰められている。
人間を支配することは、もう正しくない。
だが、祖国を裏切る決断もできない。

のび太はリルルに銃を向ける。
「止まらないと撃つぞ」

リルルは静かに返答する。
「いいわ、撃って」

リルルは、のび太に撃ってほしかった。
祖国を裏切ってしまいそうな自分を、のび太に壊してほしかった。
そして同時に、のび太は撃たないと、信じていた。

のび太は銃を構えるが、引き金を引けない。
「もうだめだ」「世界は終わりだ」と泣き叫ぶことしかできない。
(はっきり言って、お前のせいだ。としか言えない)

だが、のび太が一線を越えなかったことが、
リルルに「選択の余地」を残した。


4. 物語の考察

この物語の中心にいるのは、
リルルでも、しずかちゃんでもない。

ヘタレの野比のび太だ。
言うことだけは立派で、行動力のテストは0点。

もし、
その場にいたのがジャイアンだったら
リルルは撃たれていただろう。

それは人間を守るための、
勇敢で、論理的で、英雄的な行動だ。

のび太は、その正しい行動ができなかった。

だからこの物語では、
誰も「正しさ」を証明しない。

地球が救われたのは、
リルルの自己犠牲や、しずかの献身が
正しい行動だったからだけではない。

それぞれに、選択する余地が残されていたからだ。

のび太が正しさを超えなかったことで、
リルルは「撃たれる存在」ではなく、
「選ぶ存在」でいられた。

このシーンが描いたのは、
正しい行動の価値ではない。


5. ビジネスへの接続

ビジネスの世界にも、似た状況はある。

断るべき要求
戦うべき主張
撤退すべき案件

正解は見えている。
だが、どうしても踏み切れない瞬間がある。

『のび太の鉄人兵団』が示すのは、
その迷いを美化することではない。

正しさを即座に実行しないことで、
相手に「選ぶ余地」を残す判断が、
別の未来を生むこともある、という事実だ。

この物語でコラムを書いたのは、
私自身が、正しさと実行の間で立ち尽くした経験を何度もしているから。

新村 裕介
株式会社SPINNA BAMBOO  代表取締役

飲食店の調理師、店舗の工事会社、大手不動産系列の建築デザイン会社、
大手什器メーカーのPM部門を経て、2022年8月 株式会社 SPINNA BAMBOOを設立。
ブランドショップの工事担当から、オフィス入居の法人営業、ビル改修のコンストラクションマネージャー、
総予算100億円を超えるオフィス移転のプロジェクトマネージャーまで、多種多様な実績を積んできました。
この長年の経験を活かして、常にプロジェクトの入口から出口までの一気通貫した全体視野を持ちながらも
それぞれのステージに必要な役割に特化した、専門性の高いパフォーマンスを発揮します。
また、某大手IT企業での総務マネージャー経験もある為、インハウスの目線で課題を掴む事も得意です。